lundi, septembre 27, 2004

       

秋風リヴァー 2

 古い橋の細い歩道を歩いて渡っていると、平行している鉄橋を轟音をたてて赤い電車が追い抜いていく。その下には、堤防の外側の氾濫原が広がっている。すすきの穂が風に揺れているし、名前のわからない低木がざわめいている。
 向こう岸にはなかなか着かない。もともと私たちが住む此岸からは生きたまま対岸へは渡れないのだ。
「渡れない、渡れない」
 そういう呪文を唱えて、左右交互に前へ出される自分のつま先が、もはや自分のものではない感覚に襲われながらぼくは延々と歩き続けた。

 

samedi, septembre 18, 2004

       

秋風リヴァー

 九月のある午後のこと。秋風がひゅうひゅう吹いている。川べりの駐車場の門扉は閉じられ、カランカランと鎖が風に鳴る金属音だけだ。土手に通じるごみだらけの袋小路を歩いて、男は河川敷に通じる石段を登った。吹流しがはためいているのが見える。どこにいるのだ。待ち合わせをしたはずだった。
 向こう岸には行ったことがなかったけれど、今日はこのあと橋を渡ろう。そして、もうこちら側には帰ってこないのだ。

 

dimanche, septembre 12, 2004

       

大学病院

 その大学病院は、丘の上に立っていて、えらそうに下のほうのごちゃごちゃした街を見下ろしている。私はその巨大な病棟の一室から、隣のぼろぼろの建物の屋上の端っこに、鳩が一羽とまっているのを眺めたりしていた。日がこんなところでも暮れてしまうのは、何度も見た景色だからまだいいとしても、消灯を告げる事務的な放送が聞こえてくるのがとても嫌であった。
 静かにその病室を辞する時を待ちながら、数々の点滴のチューブの中を、薬液が点々と落ちていく小さな音を感じていた。廊下を進んでいくと、エレベータホールの非常口を知らせる緑色の灯りがあたりを照らし、そこですうっと息をしてみる。振り返ると、これまで歩いてきた廊下の床の、冷ややかな質感にぞっとした。

 

jeudi, septembre 09, 2004

       

outside

 ここでいうのものなんだが、外側に出てしまった猫は、もう中へは入れないのだと思う。
 時間は過ぎていくばかりであるし。
 
 

 

dimanche, septembre 05, 2004

       

heavy rain

 いくらなんでも降りすぎでしょうと言って、彼は外のほうを見やりました。店の庇からどぼどぼと、雨だれというよりは滝のように流れ落ちる大量の水を見つめて、これ以上このひととはかかわりあいにはなりたくないと、あらためて思ったのでした。
 帰り道は川のようになった路地を行き、みるみる本革製の靴がまるで水を履いているみたいになってしまいました。この辺はわりと高台だからいくら降っても洪水にはならないとだれかが言っていたのを思い出しながら、なかばやけくそにばしゃばしゃと勢いよく歩いてみました。雷鳴も聞こえていたし、自分を打ちのめしながら歩くのには、よい舞台装置がそろっていきました。温かい水が、首筋から背中から流れ落ちていくのを感じていました。小さなビニル傘などもう役には立たず、ただ天に向かってささげ持っているだけのものでした。

 

mercredi, septembre 01, 2004

       

「髪を切ったのですよ」

 あなたにもう一度会うとは思っていなかったので、いろいろな意味で準備ができていませんでした。あなたが好きだと言ってくれた髪を、昨日切ってしまったのです。そしてあなたを待つ駅頭で、私はたまらず座り込んだのでした。駅前の広場は九月になってもまだ炎天下でしたし。
 駅前から坂道を下っていくと、そこからは新宿の高層ビルが見えました。あの三角形のビルであなたは、ほらあのへんに富士山が見えるでしょう、そしてその手前の山が丹沢だ、その左側には「あふり」山があるのだよ、と教えてくれました。