vendredi, septembre 16, 2005

       

みどり

 みどりは眠れないからと、睡眠薬をのみ足す。虫の聲を聞きながら、始発が通過するまでには眠れることを望んでいる。流しのステンレス槽に水滴が落ち、みどりは、この小さなアパートの外に広がる秋の夜を思う。この、水滴の微かな音が、郊外の透き通った空気を振動させ、やがて月明かりの畑の畝畝のむこうの、遠くの山の闇へと消えていくのを思う。カーテンを引いていない腰窓からは、いまにも沈み行くきいろい月が、狂気のなかにいまだに住まう娘を照らした。

 

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