mardi, août 03, 2004

       

遠くの花火

 連日どこかで花火があがっている。
 この辺りではけっこう高いビルの展望室から、数十キロメートル離れた花火があがるのを見た。街明かりが途切れた先の暗幕のような低い空間にケシ粒程度にしか見えず、それはしょぼしょぼとちらついていた。
 テキサスの、二度と発音できないような聞いたことのない町から来たという白人の大男三人組が、行き交う人もない休日の夜の都心の地下道を大声で何か話しながら去っていくのを見たし、帰宅を急ぐ人々で混雑する駅のホームでは、心停止した男が蒼白になった身体を横たえて、マウストゥマウスと心マッサージを受けているのにも遭遇した。
 同じ都市の底辺の同じ夜に、この身体が経験したことだったのか。離人というのは、自らの経験が現実感を失い、だれか他人が経験していることのようにかんじられたりすることだが、遠くの花火がそのような感覚をじわじわと、この卑近でくだらない日常些事の連続に持ち込んだ。
 音も届くことなく小さく爛れていくような遠くの花火。その僅かなあかりを誰がそんなにも遠くから見つめていたろうか。

 

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